第8回フナズシ研究会において江戸時代のフナズシの再現実験の結果を報告【発酵醸造食品機能性研究センター/農学部】
2025.01.16
現代と江戸時代のフナズシの違いを科学的な視点で調査。実験結果について農学部・吉山洋子氏が報告
2024年12月21日、滋賀県立琵琶湖博物館(応接室)において、「第8回フナズシ研究会」が行われました。この研究会は、滋賀県立琵琶湖博物館 学芸員の橋本道範氏が主宰し、琵琶湖博物館フィールドレポータ―(地域学芸員)や、龍谷大学 発酵醸造食品機能性研究センターの田邊公一教授(本学農学部 食品栄養学科)、吉山洋子氏(本学農学部 生命科学科・ラボラトリー専門助手)らが参加しました。
今回の研究会は、琵琶湖博物館の橋本氏による司会進行のもと、2019年以降に取り組んできた①「江戸時代のフナズシの再現実験の結果」と②「近江のナレズシ県民大調査」について報告が行われました。
【報告①|「江戸時代のフナズシの再現実験の結果」】
報告には、吉山洋子氏(本学農学部 生命科学科・ラボラトリー専門助手)が立ちました。2022年・2023年に行った江戸時代の料理書(レシピ本)に書かれた製法でフナズシを再現する実験(※1)を報告しました。現在の一般的なフナズシの製法は、春に獲った鮒を塩漬けにし、夏の暑い時期になると取り出してご飯と共に漬け込み、乳酸発酵が進んだ冬以降に食べるというもの。一方、江戸時代のフナズシは一年で最も寒い時期である「寒の内」に漬けると料理書に記されており、製法には長期の塩漬けの記載がないほか、餅米の玄米で漬けるとあり、現在とは大きく異なります。
(※1)【→関連記事】フナの日に江戸時代のフナズシの再現に挑む実験を実施【発酵醸造微生物リソース研究センター/農学部】(2024.02.20)
(※1)【→関連動画】琵琶湖博物館公式YouTube「大実験!江戸時代の製法で「フナズシ作り」に挑戦!!」
再現実験では、近年一般的な密封漬けと、田邊公一教授・吉山洋子氏が考案した鮒寿司を一匹から手軽に漬けられる「クラフト鮒寿司作製キット」(※2)を併用し、樽漬けだけでは分からなかった鮒や飯の変化をつぶさに観察してきました。
(※2)【→関連記事】キットを使って一匹から漬けられる鮒寿司 – Mog-lab
吉山氏は、2022年と2023年の再現実験の比較結果もあわせて報告しました。まず実験区について、温度条件(気温、8℃・25℃)、米の種類(うるち米・もち米)、精米度合い(精白米・玄米)、漬け方(空漬け密封方式・水張方式)、桶の材料(プラスチック・木製・真空袋)の違いから細分化して設定。測定は、樽内の環境条件や飯の溶出成分、フナズシの変化に関して行いました。
再現実験の結果は、異なる材料を用い、冬場(低温)に漬けた場合も発酵に時間は要するもののフナズシにはなること、ただし、現在とは異なる性質であることが明らかになりました。実験区によって甘味や酸味、骨の硬さなどに明らかな違いがみられました。
今回の実験結果より、江戸時代と現代のフナズシには、味わい(塩味が強く酸味と甘味が弱い江戸時代のフナズシに対して、現代のフナズシは塩味が弱く酸味と甘味が強い)、米の溶け方(粒が残る江戸時代のフナズシに対して、現代のフナズシは溶解が進んでいる)、鮒の骨の硬さ(硬い江戸時代のフナズシに対して、現代のフナズシは柔らかい)等の違いがあったと考えられました。
これらの違いが生じた要因として、吉山氏は「フナズシにかかる米・魚・道具などの技術の進歩、より甘く、酸っぱく、飯・骨は柔らかくといった味の嗜好の変化、そして、温暖化による気温上昇といった環境の変化が考えられる。私たちの嗜好やライフスタイルの変化に応じて、フナズシも材料や製法が変化してきたのではないか」と考察しました。
【報告②|「近江のナレズシ県民大調査」】
報告には滋賀県立琵琶湖博物館 特別研究員の柏尾珠紀氏が立ちました。ナレズシとは、魚を塩とコメなどのデンプンで乳酸発酵させた発酵食品です。柏尾氏が近年行った研究では、琵琶湖地域にはフナズシをはじめとして、23種類ものナレズシが存在していることが明らかになりました。しかし、滋賀県内で、どのくらいの方々がナレズシを食べたり、作ったりしているのかについては、30年前の調査結果があるだけです(環境と食の研究会1993、滋賀の食事文化研究会1995)。そこで、2023年度の「近江のナレズシ県民大調査」では、現在のナレズシの消費や生産の実態を把握することを目的に実施され、2000名を超える滋賀県内在住者からの回答を得ました。(※3)
同調査の結果は、琵琶湖博物館HPにて公表されています。フナズシをはじめとしたナレズシの消費や製造の実態に迫る調査結果をぜひご覧ください。
(※3)【→関連News】琵琶湖博物館HP>「近江のナレズシ県民大調査」の成果が公表されました(2024年11月08日)
(※3)【→関連資料】フィールドレポーターだより第58号>「近江のナレズシ県民大調査」結果報告
【イベント案内|2025年3月15日(土)研究報告会】
フナズシ研究会では、2025年3月15日(土)13:30〜17:00、琵琶湖博物館セミナー室において研究報告会『江戸時代のフナズシに、挑戦する』を開催予定です。
ご興味ある方はぜひふるってご参加ください。 ※申込不要、参加無料
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