Research Center for Functions of Fermented Food

発酵醸造食品機能性研究センター

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とある日の発酵RC研究員の1日(Vol. 1)【発酵醸造食品機能性研究センター】

2025.05.07

高島市・朽木地域の伝統的な発酵食品の製造工房をたずねて


 2025年4月25日(金)、「鯖のへしこ」と「鯖のなれずし」の樽あげが行われると聞き、現地に見学に行ってきました。今回訪れた場所は、滋賀県高島市中心部からバスで約1時間、京都府と福井県の県境近くにある朽木の「針畑ルネッサンスセンター」で、山あいの針葉樹林に囲まれた静かで趣のある建物です。(①)
 到着したときには、ちょうど、「へしこ」の樽あげの作業中で、あたりには海産物特有の香ばしい匂いが漂っていました。滋賀県には海がないため、その香りがより一層印象的でどこか懐かしく感じられました。(②、③)
 現在、ここで「へしこ」と「なれずし」を作っているのは、今井尚さんと英子さんご夫妻です。ここで受け継がれてきた製法は、先代、さらにその先代から伝わる独自のもので、代々大切に守り続けられてきた伝統的な発酵食品です。お二人からお話を伺ううちに、「へしこ」と「なれずし」に込められた想いが伝わってきました。しかしその一方で、後継者不足や施設利用の問題など、さまざまな事情により、現在は閉業も考えざるを得ない状況にあるとのことでした。この高島の地で長い年月をかけて育まれてきた味や文化は、決して失ってはならない大切なものだと感じます。
 当センターとしても、作り手の想いに寄り添いながら、こうした伝統的な食品を守り、後世にしっかりと伝えていく役割を果たしていきたいと改めて心に刻みました。(④)

 なごりおしいですが、午後には現地を離れ、研究室に戻りました。研究室では、石原 健吾 教授(発酵RCセンター長)と学生たちと共にお土産の試食会を開きました。
 まずは、「鯖のなれずし」(⑤)の感想からです。鯖の脂の香りと優しい発酵の香りがあわさり、食べる前からお酒がほしくなりました。身の部分を食べてみると、凝縮された鯖のうま味とほどよい酸味が広がり、後を引く味でした。
 次に、飯の部分を食べてみると、お米の優しい甘さが感じられ、これも主役級のおいしさでした。そしてもう一品、「へしこ」(⑥)です。食べてみると、以前別の場所で食べたものとはまったく違う印象を受けました。ぬかの香りと鯖の香りが絶妙に絡み、食欲をそそる香りが口のなかいっぱいに広がります。そして、その塩味の中に鯖のうまみがぎゅっとつまっており、ご飯にもお酒にもぴったりの一品でした。
 試食会で出た感想の中で印象的だった言葉は、「しみじみと旨い」と「体に染み渡る旨さ」でした。まさに、このふたつの発酵食品を表現するのにふさわしい言葉だと思いました。
 やはり、こんな素晴らしい食品が失われていくのは非常に惜しいことだと感じますので、当センターとしても、今後しっかりと応援していきたいと考えています。

発酵醸造食品機能性研究センター 博士研究員 柿崎 博美

①針畑ルネッサンスセンター
②樽あげの様子
③樽あげされた「鯖のなれずし」
右から、今井 尚さん、三科 美保子さん、今井 英子さん
⑤鯖のなれずし
⑥鯖のへしこ